立地評価ガイド
地盤の履歴を買う前に調べる方法 — 旧河道・盛土・切土を地図で見分ける
公開: 2026 年 8 月 21 日 · SafeLand 編集部
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ハザードマップを見て「浸水想定区域外」だと確認できても、それだけではその土地の地盤が安全かどうかはわかりません。液状化・不同沈下・盛土の滑動といった被害は、想定された災害シナリオではなく、その土地がどうやってできたかに強く支配されるからです。
しかも地盤の履歴は、重要事項説明で原則として説明されません。買主が自分で調べない限り表に出てこない情報です。この記事では、国土地理院と自治体が無料公開しているデータだけで、旧河道・旧池沼・盛土地・切土地を見分ける手順を解説します。所要時間はおよそ 1 時間、費用はかかりません。
地盤情報はハザードマップに載っていない
ハザードマップが示すのは、河川氾濫や津波といった「外から水が来る」シナリオの想定結果です。一方で地盤起因の被害は、外から何も来なくても発生します。
- 液状化: 地震時に砂質地盤が水を含んだ状態になり、建物が沈下・傾斜する
- 不同沈下: 地盤の硬さが場所によって違うため、建物が不均等に沈む。地震がなくても年単位で進行する
- 盛土の滑動崩落: 谷や斜面を埋めた盛土が、大地震時に地すべり状に動く
いずれも修復に建物本体の価格に匹敵する費用がかかることがあり、床上浸水より経済的なダメージが大きくなるケースも珍しくありません。それにもかかわらず、この情報は誰も自動的には教えてくれません。
地理院地図で使う 4 つのレイヤー
使うのは国土地理院の地理院地図(maps.gsi.go.jp)一つです。無料・登録不要で、以下の 4 レイヤーを重ねられます。
地形分類(自然地形)
台地・段丘、扇状地、自然堤防、後背湿地、旧河道といった自然の成り立ちを色分けで表示する。クリックするとその区分の説明と、想定される自然災害リスクがポップアップで出る。まず最初に開くレイヤー。
地形分類(人工地形)
人の手で改変された土地を表示する。切土地は山地・台地などの造成地のうち切取りによる平坦地または傾斜地、盛土地・埋立地は山地・台地・低地および水部に土を盛って造成された土地として区分される。造成地の物件では必須。
治水地形分類図
主要河川の流域を対象に、氾濫平野・自然堤防・後背湿地・旧河道などを詳細に区分した図。同じ「低地」でも一段高い自然堤防と、水が溜まりやすい後背湿地では浸水リスクが大きく異なる。低地の物件で効く。
旧版空中写真(1960 年代など)
造成前の土地の姿を直接見る。宅地開発前が谷だったか、田んぼだったか、池だったかが写真で確認できる。地形分類が未整備の地域でも使えるため、最後の確認手段として有効。
「地形分類」はベクトルタイルとして提供されており、地図上をクリックするだけでその地点の区分名・説明文・想定される自然災害リスクがポップアップ表示されます。凡例を読み解く必要がないため、専門知識がなくても使えます。公開範囲は順次拡大していますが全国一律ではないため、未整備の地域では旧版空中写真で代替します。
盛土地と切土地を見分ける
丘陵地を造成した住宅地では、同じ分譲地の中に切土の区画と盛土の区画が混在します。地形分類(人工地形)での区分は次の通りです。
- 切土地: 山地・台地などの造成地のうち、切取りによってできた平坦地または傾斜地
- 盛土地・埋立地: 山地・台地・低地および水部に土を盛って造成された平坦地または傾斜地
一般に、切土側は元の地山がそのまま残るため地盤が安定しており、盛土側は人工的に積んだ土のため締固めの品質に左右されます。とくに注意が必要なのは切土と盛土の境界をまたぐ区画です。地盤の硬さが敷地内で急変するため、不同沈下が起きやすい条件になります。
造成の年代も効きます。宅地造成に関する規制は段階的に強化されており、現在は2023 年 5 月 26 日施行の「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称: 盛土規制法)のもとで、宅地造成等工事規制区域と特定盛土等規制区域が指定されています。古い造成地ほど、現行基準より緩い基準で施工されている可能性があると考えておくのが安全側です。
大規模盛土造成地マップを確認する
地形分類とは別に、自治体が公表している大規模盛土造成地マップがあります。地方公共団体が抽出した大規模な盛土造成地を示したもので、全国での公表は 2020 年 3 月 30 日に完了しています。「(市区町村名) 大規模盛土造成地マップ」で検索すれば見つかります。
対象になるのは次の 2 種類です。
- 谷埋め型: 谷や沢を埋めた盛土で、盛土の面積が 3,000 平方メートル以上のもの
- 腹付け型: 斜面に土を付け足した盛土で、盛土前の地盤の水平面に対する角度が 20 度以上、かつ盛土の高さが 5m 以上のもの
ここで誤読しやすい点を明確にしておきます。このマップは「直ちに危険性のある盛土造成地」を示すものではありません。大規模地震時に滑動崩落の被害が発生した盛土造成地の実態を踏まえて、安全性を確認すべき盛土を示したものです。該当したからといって購入をやめる話ではなく、擁壁の状態・造成年・その後の対策工事の有無を追加で確認すべきサインと捉えるのが正しい使い方です。
旧河道・旧池沼を見つける
平地の物件で最も効くのが旧河道の確認です。かつて川が流れていた跡地は、砂や礫が緩く堆積しており、周囲より一段低く水はけが悪い傾向があります。地震時の液状化と、平常時の不同沈下の両方でリスクが上乗せされます。
地形分類(自然地形)と治水地形分類図の両方で旧河道の区分が表示されます。あわせて旧版空中写真を重ねると、埋め立てられた池や沼、区画整理前の水路が視覚的に確認できます。1960 年代の写真は、高度成長期の宅地開発が本格化する前の姿を残していることが多く、有用です。
地図上のヒントとしては、周囲の直線的な区画割りの中で 1 本だけ蛇行する道路が典型です。区画整理で水路を暗渠化した場合、道路の形にかつての流路が残ります。
地形分類の読み方 — 低地は一様ではない
「低地だから危ない」という単純化は正確ではありません。同じ低地でも、地形分類によってリスクは大きく分かれます。治水地形分類図を使うと、この内訳が読めます。
- 自然堤防: 河川が氾濫を繰り返す過程で流路沿いに砂が積もってできた微高地。周囲の低地より一段高く、水はけも比較的良い。低地の中では条件が良い部類
- 後背湿地: 自然堤防の背後にできる低湿地。水が抜けにくく、軟弱な粘土層が厚い。浸水も沈下も起こりやすい
- 旧河道: かつての流路。砂質で緩く、液状化しやすい
- 氾濫平野: 河川の氾濫でできた平坦地の総称。上記の微地形が入り混じる
重要なのは、これらが数十メートル単位で切り替わることです。同じ町名・同じ丁目でも、道路 1 本挟んで自然堤防と後背湿地に分かれることは珍しくありません。町名単位で判断せず、地番の位置でクリックして確認するのが正しい使い方です。
現地で確認できるサイン
地図で仮説を立てたら、内見時に現地で裏を取ります。地盤の実態は、建物より外構と道路に先に現れるのがポイントです。
擁壁のはらみ出し・クラック・水抜き穴の詰まり
擁壁の背面に水が溜まっている可能性がある。空石積みや大谷石など古い工法の擁壁は、現行基準を満たしていないことがある。造成地では擁壁の状態が地盤より先に効くことが多い。
電柱・ブロック塀・門柱の傾き
その区画で不同沈下が進行しているサイン。建物本体は補修されていても、外構は放置されていることが多いため、地盤の実態が出やすい。周囲数軒をまとめて見ると傾向がわかる。
道路の波打ち・補修跡の集中
地下埋設管の沈下や地盤の動きに繰り返し対応している可能性がある。同じ通りの中で特定の区間だけ補修が集中している場合、その区間の地盤条件が周囲と異なることを示唆する。
不自然に細長く曲がる区画や道路
旧河道や水路の跡がそのまま区画割りに残っている場合がある。周囲の直線的な区画の中で 1 本だけ蛇行する道は、かつての流路である可能性が高い。地形分類と重ねて確認する。
周囲より一段低い区画、雨天時の水たまりの位置
旧池沼の埋立や谷埋め盛土の可能性がある。晴天時には気づきにくいため、可能なら雨天時か雨の翌日に現地を見ると水の集まる場所がわかる。
とくに周囲数軒をまとめて見ることをおすすめします。1 軒だけの傾きは施工不良の可能性がありますが、同じ方向に複数軒が傾いている場合は地盤側の問題である可能性が高くなります。
この方法でわからないこと
地図と現地観察でわかるのは「その土地がどうやってできたか」までです。以下は別の手段が必要になります。
- 支持層の深さと地耐力 — 地盤調査(スクリューウエイト貫入試験など)の結果が必要。新築や築浅なら売主に地盤調査報告書の開示を求める
- 地盤改良・杭工事の有無 — 建築確認申請の書類や施工会社の記録で確認する
- 盛土の締固め品質と造成年 — 開発許可の記録が自治体に残っている場合がある
- 地下水位 — 液状化の発生条件に直結するが、公開地図からは読めない
言い換えると、この記事の手順は「地盤調査報告書を見せてもらう価値があるかどうかを、無料で判断するためのスクリーニング」です。地形分類で旧河道や谷埋め盛土に該当した物件は、追加調査のコストをかける優先度が高いと判断できます。
なお、地盤の履歴は重要事項説明の対象外です。何が説明され、何が説明されないかは 「重要事項説明で必ず確認したい災害項目チェックリスト」で整理しています。ハザードマップ側の読み方は 「ハザードマップの読み方 5 ステップ」を参照してください。
SafeLand の立地診断では、国土地理院の標高データから地形の特徴を自動で判定し、ハザード・空き家率・人口動態・生活便とあわせて住所単位で A〜D グレードを返します。地形分類を自分で読む前の当たりをつける用途にも使えます。
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